今井町公民館 ー「ミチコオノ日記」読者集会所ー

旧称:「ミチコオノ日記」読者日記もしくは私的ファンサイト

出撃の合図

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〈文〉高岡ヨシ

〈絵〉ミチコオノ

 

***

 

この世には、タイミングというものが存在する。

 

タイミングは、透明だ。

無味無臭、その上、音もない。

 

自分はこれまでの人生で、その「タイミング」というものをことごとく逃してきた。

 

声を上げるべき時にだんまりを決め、立ち上がるべき時に布団をかぶった。

環境、状況、事情、踵を返す理由はいくらでも転がっていたが、事実としてタイミングを見逃してきたのだ。

 

タイミングというものは、気まぐれでせっかちだ。

彼らに時刻表はない。

 

予告もなしに現れて、風と共に去っていく。

そう、つまり、スカーレット・オハラだ。

こうと決めたら突き通す、魅力的な頑固者。

750ccのバイクで疾走する彼女は、コタツに入りチョコレートを食べている自分には見向きもしない。

何かの拍子でハタと気付き、急いで顔を上げた時には、その後ろ姿さえも見えなくなっているのが常だった。

 

自分が初めてタイミングの姿を捉えたのは、26歳の時だった。

その歳になって急に頭が覚醒した、なんてことはなく、透明であるはずのタイミングを見ることが出来るメガネをかけていた嫁と知り合ったのが、その理由だ。

 

なぜだかは分からないが、彼女はタイミングが来る瞬間を知っていた。

 

「おい、来たぞ」

「ここで飛べ」

「早くしろ」

 

抱えたものを処理できず、過去と現在に押し潰され、井戸を掘りに行こうと思っていた(比喩ではなく、実話)26の自分の後頭部を叩き、背中を蹴った。

冗談みたいに前のめりになって押し出された道の先に、タイミングというそいつは立っていた。

 

カナダに移住して12年。

後にも先にも、あれほど強烈にタイミングを意識した瞬間はない。

それは嫁も同様で、人生を変える選択をしたあの日を境に、彼女はミエルメガネを手離した。

 

「あんたの為にならない」

 

捨てたメガネをもったいないとしか思えなかった当時の自分に、石を投げてやろうと思う。

 

 

タイミングとサインは友達だ。

そう気付いてから、自分は色々なものに注意を払った。

 

合ってる時とそうでない時の確率、20対80。

打率2割じゃ代打にも使われない。

それでも自分はサインを探した。

 

2割でもいい、10本中2本の割合で1塁ベースに辿り着けるならば悪くない数字だし、もう布団の中に戻るのはウンザリだった。

 

少し前に、とても印象的な夢を見た。

小学生の自分が、まだ活気があった向ヶ丘遊園にいる夢だ。

 

新聞配達のおじさんが年に1回くれるタダ券で行く、向ヶ丘遊園。

想像することしか出来ない浦安ねずみランドよりも、実際に目で見て体験できる向ヶ丘遊園は、当時の自分にとって正真正銘、夢の国であった。

 

モノレールに運ばれて到着した先にある大階段。そこのてっぺんから見渡す街の景色が大好きで仕方がなかった。

 

夢の中の自分は、やっぱりそこにいた。

ただ、そこで見ていたのは街の景色ではなく、その姿を見つめている存在、つまりその視線は夢を見ている自分に向けられていた。

問いかけるような、試しているかのような目をした自分。心の奥にある欲を強く刺激された。

 

先へ行きたい。

もっともっと、先へ行きたい。

 

猫に首を踏まれて目が覚めても、ずっとその感覚は残っていた。

何だかスッキリせず、見切り発車ではあるが、何とも言えない気持ちをこの公民館のコメント欄に書き残した(訳の分からない質問に答えてくれた に さんに感謝)。

そうして迎えたその日の夜、全く予想だにしていない方向からレスポンスをもらった。

 

「ここ、ですよね」

 

コメント欄ではなく、メールとして送られてきたその言葉に貼り付けられていた、1枚の写真。

自分と同年代と思われる子供が、お父さんに抱かれてこちらを見ていた。

斜め上に向かって伸びる白い階段、彼らの背景にあったのは、元気よく息をしていた頃の向ヶ丘遊園だった。

 

10本中の2本。

タイミングの尻尾を掴むサイン。

 

先へ行きたい。

もっともっと、先へ行きたい。

 

自分が今やるべきことを確認するには、十分なメッセージだった。

 

在りし日の向ヶ丘遊園の階段を目にした翌日、ナギさんがミチコさんの絵をアップしてくれた。

 

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自分が描かれていることも嬉しかったが、それよりも目を引く存在が絵の中にあった。

 

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写真上部でスクラッチを決めている男、DJ・JINだ。

 

いつも都合よく持ち出す心の鏡。

射抜くような目でこちらを見つめたジン君は、画面越しにこう言った。

 

 

「おい、来たぞ」

「ここで飛べ」

「早くしろ」

 

 

湧き上がった欲を受け入れるのに、駄目押しの言葉だった。

 

 

***

 

先へ行きたいと願うようになりました。

もっと、もっと先へ。

 

昼と夜を逆転させるには、一体何が必要なのか。

自分には何が出来るのか。

 

しばらく、ここを離れます。

 

分散していた想いを、一箇所にまとめて書いてみます。

間近に迫るのは、Amazonコンペ。

 

750ccの後ろ姿に食らい付き、やれる限りやってみます。

 

仕上がりましたら、ここで報告させてください。

よろしくお願い致します。

 

今井町公民館給湯係り

 

高岡ヨシ

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