今井町公民館 ー「ミチコオノ日記」読者集会所ー

旧称:「ミチコオノ日記」読者日記もしくは私的ファンサイト

「もうわたしを離していいよ」

公民館の皆様、読者の皆様、あけましておめでとうございます。

山猫です。神戸は今朝初雪が降りました。

ところで、かんべむさしというSF作家をご存知ですか?

兵庫県出身の作家ということで、同郷のよしみもあってわたしは高校生くらいのときに作品を知って一時期猛烈にはまりました。

デビュー作は「SFマガジン」に掲載された『決戦・日本シリーズ』という作品でした。

手元に作品がなくて、内容はうろ覚えですが、少し内容を紹介します。間違っていたらごめんなさい。

1974年の作品発表当時のプロ野球パ・リーグには阪急ブレーブスというチームがありました(今のオリックスバッファローズの前身球団の一つです)。

名将・西本幸雄監督の下、何度もリーグ優勝を果たした常勝球団で、チームの本拠地は兵庫県西宮市の阪急西宮球場でした。ちなみにこの球場は球団がなくなった後に解体され、今ではショッピングセンターに変わっています。

そのすぐ近くにあるのが、甲子園球場です。こちらも同じく西宮市です。つまり当時、西宮にはプロ野球の球団が2チームもあったわけです。

こちらを本拠地としているのはご存知、阪神タイガース。

小説は、この両球団がそれぞれリーグ優勝を遂げて日本シリーズで戦っていたら、という「もしも」のストーリーです。

残念ながらこの対戦を実現するためにはリーグ優勝しないといけないので、何度阪急が優勝しても当時の阪神にはその勢いがなく、結局、実際に日本シリーズで両チームが対戦することはありませんでした。

ここから先はローカルな話になりますので、少し説明しておきますね。

阪・神戸間を結ぶ鉄道は3本あります。

まず、大動脈としてJR神戸線があって、その南の海側を阪神電車が走り、北の六甲山麓を走るのが阪急電鉄です。今もこの3本の鉄道が六甲山と海とに挟まれた細長い阪神間を結んでいます。

同じ阪神間と言えど、北部と南部とでは路線住民の方の気質にはかなりの違いがあります。よく知りませんが、東京にも地域性の違いがあるのではないでしょうか?

タイガースファンの熱烈さは今も当時も変わりません。

日本シリーズでの試合が展開されていくとともに、両球団のファンの間での対抗心はメラメラと燃え上がり、それこそ一触即発の状況になっていきます。

その盛り上がりをさらに炊きつけるように、日本シリーズの結果次第で、優勝した球団側の電車が相手球団側の線路を走る、ということが決まります。

つまりたとえば、タイガースが優勝すれば、阪急電鉄の線路を阪神電車が走るのです。

優勝した勢いで道頓堀にダイブするくらいのファンを持つタイガースです。そんな熱血ファンたちを満載した電車が阪急ファンたちに雄たけびを浴びせながら走っていく、、、この面白さを阪神間以外にお住まいの方にお伝えするのは難しいかもしれません。

Nagi (id:Nagi1995) さんなら、分かっていただけるでしょうか?

強烈だったのは、ラストの描き方でした。

ラストは二つ用意されていました。

一つは阪急の勝利編、もう一つは阪神の勝利編です。それぞれのラストは、「SFマガジン」の紙面の上段と下段とに分けて、両方の話を並行して書き進められていきました。

今ではよくある手法かもしれませんが、当時のわたしには強烈過ぎるほど新鮮でした。

 

ごめんなさい、公民館とはあまり縁のない話を延々と書いてしまいました。もう少しだけお付き合いください。

 

これ以降、かんべむさしはさらに奇想天外な作品を連発していきました。

その中に、『道程』という作品があります。こんなお話です。

ある朝めざめると、俺は仰向けになって天井で寝ていた。

ひとりだけ重力がさかさまになった男の難行を、息詰まるほど徹底的にシミュレートした異色作。

(「BOOK」データベースより)

主人公の「俺」はそんな状況にあってもいつも通り出勤しようと悩みます。

そして、ついに決心して「俺」は天井から窓を通って外に出て、電線を伝って会社に向かっていきます。

『ポセイドン・アドベンチャー』というパニック映画がありました。

真っ逆さまに転覆した豪華客船ポセイドン号の客室から海の上に突き出た船底を目指して、いくつもの困難に立ち向かいながら乗客たちが脱出していく、というストーリーをご存知だと思います。

あの映画の場合は天地がひっくり返っていても足元がありました。

『道程』の「俺」は家の外にいったん出たら、足元には空しかありません。底なしの空です。

この設定にドキドキして読んだ記憶があります。

 

ピンと来た方いらっしゃいますよね。第13話です。

fukaumimixschool.hatenablog.com

ジン君がオノさんに語る『わたしを離さないで』のお話です。

 

公園で遊ぶ双子の姉妹は、ひょんなことから重力の壁を取っ払ってしまい、真横を向いてしまいます、というとんでもないお話でした。

誤解しないでください。

ここでわたしは設定が似ているということを言いたいわけではありません。

上下逆さまという設定までは思いついても、この真横を向いてしまうという発想を得るのは、さらに大きな飛躍が必要だと思います。

ミチコさんすごい! と思うと同時に、やられた! と強く強く思いました。

この話を展開していくためには体格が非常に近い2人を登場させる必要があり、そこから双子の姉妹が公園で遊んでいるという場面設定がなされることになったわけでしょう。

この第13話がわたしが一番衝撃を受けた作品です。

 

このとき感じた思いは前回書かせていただいた ↓ の記事でも触れました。 

nagi1995.hatenadiary.com 

偶然にも、ここではミチコさんの「中で横を向く」という記事を取り上げています。

元になったミチコさんの記事が今は閲覧できなくなっていますので確認できませんが、「中で横を向く」というのは一体どんな意味だったのか、わたしには分からないままです。

 

ジン君のお話のクライマックスは、

「もうわたしを離していいよ」

という言葉を姉妹2人が同時に発する場面です。

緊迫感が全身に満ちて力が入る瞬間です。最高にドキドキしました。

 

 

ところが、その次の場面であっけなくお話は終わります。

ミチコさんはつぶやきます。

「もう来年はジン君の話 聞けないんだ」って。

その声はとてもとても寂しく響きました。

 

そして、「もうわたしを離していいよ」という言葉は、あまりに意味が深いように思えて仕方ありません。

 

 

 

この双子の少女たちのお話の続き、いつかぜひ聞きたいな。

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